1995年度 日本史学演習(海老澤衷先生ゼミ) 活動記録


1995年8月29日 追分セミナーハウスにて

年間の演習テーマ 東寺と播磨国矢野荘をめぐる諸問題−「東寺学衆方引付」の輪読−

 播磨国矢野荘をテーマにしたゼミの2年目。班分けした小テーマごとに個別報告をしていた昨年までとは趣を変え、本年は「東寺学衆方引付」のうち、矢野荘に関わる分の輪読を行った。
 幸い、『相生市史』が該当史料を網羅的に翻刻していたので、ゼミではこれを底本として使用した。班ごとの個別報告というスタイルをやめ、この年以降、しばらくの間、連続して古記録・古文書を輪読するというスタイルが定着した。

T.各回の担当者とテーマ

(1998年)
第1回(4月24日/清水克行) 「学衆方評定引付」康永三年二月〜四月分
第2回(5月8日/徳永健太郎) 「学衆方評定引付」康永三年八月〜貞和元年分
第3回(5月15日/北村 拓) 「学衆評定引付」貞和二年〜貞和三年分
第4回(5月22日/松澤 徹) 「学衆方評定引付」貞和四年二月〜五月分
第5回(5月29日/小田切秀憲) 「学衆方評定引付」貞和四年八月〜十月分
第6回(6月5日/村井祐樹) 「学衆方細々引付」貞和四年二月分
第7回(6月12日/鈴木喜久子)「学衆方評定引付」貞和四年八月〜十一月分
第8回(6月19日/黒田智)  「学衆方評定引付」貞和五年分
第9回(6月26日/高木徳郎) 「学衆方評定引付」観応元年分
第10回(7月3日/宮本康子) 「学衆奉行引付」観応元年前半分
第11回(7月10日/楠木武) 「学衆奉行引付」観応元年後半分
第12回(9月18日/楠木武) 修士論文構想報告「播磨国矢野荘における悪党事件と在地領主間結合」
第13回(9月25日/清水克行) 「学衆評定引付」観応二年分
第14回(10月2日/小田切秀憲) 「学衆評定引付」文和元年分
第15回(10月9日/宮本康子)  「学衆評定引付」文和二年二月〜五月分
第16回(10月16日/黒田智) 「学衆評定引付」文和二年五月分
第17回(10月23日/高木徳郎) 「学衆評定引付」文和二年五月〜七月分
第18回(10月30日/鈴木喜久子) 「学衆評定引付」文和二年七月〜九月分
第19回(11月13日/村井祐樹) 「学衆評定引付」文和二年九月〜文和三年十一月
第20回(11月27日/松澤徹) 「学衆方評定引付」文和四年分
第21回(12月4日/北村拓) 「学衆評定引付」延文元年〜延文三年分
第22回(12月11日/小田切秀憲) 「学衆方評定引付」延文四年二月〜三月分
第23回(1月8日/海老澤衷) 関連報告「播磨国大部荘調査の現状と課題」
第24回(1月22日/鈴木喜久子) 「学衆方評定引付」延文四年四月〜八月分
第25回(1月29日/松澤徹) 「学衆方評定引付」延文四年八月〜十一月分
  
U.主な討論内容と成果

@矢野荘の「城郭」と「政所」(第2・8・13回)
 重藤名に置かれた政所(重藤政所)が、東寺と「悪党」との当知行をめぐるせめぎ合いの中で「重藤城」と呼ばれ城郭化したり、田所が管領する名の一部を「要害」とするなど、緊迫した在地情勢のなかで、荘園における「城郭」「要害」の意味についての議論が深まった。要害の設営には「酒肴」が振る舞われるなど、領主の危機管理論との関連も議論された。
A代官と年貢収納(第9・15・17・19・20・21・22回)
 領主と農民の中間で年貢の収納はもちろん、代納・立て替え・換金・訴訟などを行う寺僧代官の存在とその活動の様相が議論された。また年貢の替銭を運送する途中で紛失した事件についての糾明など、年貢収納の実態を知る興味深い史料の解読を通じて、その具体的なあり方についての認識を深めることができた。また、文和・延文年間の年貢算用状にのみみえる「秋麦」は蕎麦・粟の別称であることが明らかにされた。
B東寺の荘園経営と寺院組織(第3・4・5・6・7・9・10・11・13・14回)
 深源・杲宝らによる矢野荘給主職をめぐる相論が、一方の当事者による「悪党」の荘内引き入れで在地に大きな混乱をもたらしていく過程については、前期の輪読で最も議論が深まった点である。また、学衆方評定における「多分儀」が寺務の意向さえ覆しうることが分かったのも、寺院における意志決定のあり方を知る上では示唆的であった。
C守護領国制と矢野荘(第15・17・18・20・22・24回)
 後期の輪読でしばしば議論に出てきたのが守護とその被官の動向の問題。矢野荘の在地勢力が守護から預所職を拝領したり、所務職を守護被官が所望するなど、守護勢力の浸透の具体的な様子についての議論が行われた。また、名主が守護使を荘内に引き入れたかどで闕所とされるなど、農民レベルでの守護との関係の深まりについても認識が深まった。

V.ゼミ合宿・行事の記録

1995年
4月10・17日 新入院生の卒論報告
6月3日〜4日 新入生歓迎合宿(山梨県甲府・塩山方面)
 武田神社、善光寺、恵林寺などを見学。善光寺では、米倉迪夫氏『源頼朝像』(平凡社)で話題の、最古とされる源頼朝の木像を、恵林寺では天正年間の寺誌を見学した。
8月末 夏季報告会

1996年
3月27・28日 春季報告会 28日の夜に懇親会を兼ねた追い出しコンパ。
この年は渡辺智裕氏が福島県立歴史資料センターに、さらにOBの田村憲美氏も別府大学に就職した。
                                               (ゼミ幹事 高木徳郎)

 

 


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